ホンネ対談
治療薬の効き方には個人差があり、すべての患者さんで同じような効果が得られるわけではありません。
病気になっても、人生が終わるわけではない。
患者視点で発信を続ける。
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーが
広く認知される日を目指して
森内 剛さん
(シロクマセンセイ)
高橋 龍太さん
(どらごん)
森内 剛さんプロフィール
57歳。福岡在住。小学校の教諭をしていたが、50歳の時にトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーを発症。その2年後には生体肝移植の手術を行い、壮絶な入院生活を経験。治療を機に福岡に移住し、現在はご自身の体験を伝える講演や執筆活動を、またSNSなどでは“シロクマセンセイ”というアカウント名で情報発信を行いながら、前向きに日常生活を送る。
高橋 龍太さんプロフィール
31歳。鳥取在住。20歳代後半頃にトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーを発症、その1年後に確定診断を受け、治療を開始。現在は治療を継続しながら、病気の発症前に生業の1つとしていた狩猟の再開を目指し、体力づくりに励む。その傍らで、SNSなどでは“どらごん”というアカウント名で同じ病気の方のために情報発信を続けている。
今回の対談に参加していただいたのは、森内剛さんと高橋龍太さんです。伯父と甥の関係にあるおふたりが遺伝性の病気であるトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー*と診断されるきっかけとなったのは、森内さんの妹さん、つまりは高橋さんのお母さんの発病でした。「同病の方に情報を伝えたい」、「この病気がどのようなものか知ってもらって早期に診断・治療される人が増えてほしい」、そんな思いから、おふたりはそれぞれ“シロクマセンセイ”と“どらごん” として、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーに関する自らの経験や情報をSNSなどで発信し続けています。今回は、おふたりやご家族を悩ませたこの病気について、患者だからわかること、家族への思い、また情報発信者としてそれぞれ活動する中で感じていることなどについて、お話しいただきました。
自らの情報を積極的にオープンにすることで同病の方の励みになりたい、この病気の認知・理解をより高めていきたいというおふたりの思いを踏まえ、今回は実名と写真付きでご紹介します。
「遺伝性ATTR(ATTRv)アミロイドーシス」、「FAP(Familial Amyloid Polyneuropathy)」とも呼ばれています。
同世代の人と比べて明らかな体力低下。
でも発症当時はこの病気だとは疑っていませんでした
(高橋さん)
まずは、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーが発症・診断された時の状況についてお聞かせいただけますか?
森内さん:僕はもともと小学校の教諭をしていましたが、妹がこの病気を発病したことをきっかけに、自分にもその病因があるとわかりました。残念ながら妹は、この病気だとわかった時には既に手術も難しい状態だったのですが、僕のほうはかろうじて治療が可能という状態でした。それで、妻の肝臓の一部を提供してもらい、生体肝移植を行いました。今もこうして、たくさんの人に助けられながら日々ありがたく過ごしています。
高橋さん:最初に出た症状は立ちくらみや息切れでした。母がこの病気だったので、自分も発症する可能性があることはわかっていました。でもさすがに20歳代でそんなに早く発症するとは思っていなかったので、当時はこの病気だとは疑っていませんでした。ただ、周りの同世代の人と比べて明らかに体力の落ち方が違う感覚があって、1度受けてみようと検査してみたのです。その時はもう遺伝している覚悟はありました。結果、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーだと診断されました。
甥っ子たちも検査を受けたほうがいいと思って、
しつこいくらい勧めました
(森内さん)
お互いの病気の状況などについては、いつ頃からお話をされていましたか?
高橋さん:お互いに連絡をとり合うようになったのは伯父さんの手術が終わって落ち着いてからだと思います。
森内さん:龍太君たち兄弟に検査を初めて勧めたのは、妹の葬儀が終わってひと段落ついた時でした。その時、「実は自分も遺伝しているんだ」と伝え、「お前たちもできれば検査したほうがいいよ」と話しました。その後、僕は手術を受け、無事成功しましたが、娘がその時に受けた検査で遺伝していることがわかりました。それで龍太君もやっぱり検査を受けたほうがいいと思って、しつこいくらいに何度も勧めました。
高橋さん:当時は遺伝しているかどうかわかっても治療法も十分になかったですし、まだ症状も何も出ていなかったので、自分の体の心配はあまりしていませんでした。ただ、「弟には遺伝していませんように」と思っていました。
森内さん:その気持ちはとてもわかります。僕も自分よりも娘に遺伝しているとわかった時に非常にショックを受けました。この病気が遺伝する確率は50%だといわれているのに、「なぜ僕の周りの家族にはみんな遺伝してしまうんだ、なぜ自分で止めてくれないんだ」と思いました。落ち込みましたが、今は娘も定期的に色々と検査を受けてくれているので安心しています。
ポジティブに考えを転換するのは、
この病気と付き合っていく上で大事なことだと思います
(高橋さん)
他のご家族の方とも病気の症状や検査のことなどについて、よくお話をされますか?
高橋さん:弟とは定期的に連絡をとっています。弟はまだ遺伝学的検査をしていないですが、症状が出ていないか確認したり、自分のほうにどんな症状があるかを伝えたりして、「似たような症状が出たら検査をしようね」と話しています。
森内さん:妻とは常々、「病気になってよかったね」と話しています。これを言うとみんな「え?」って苦笑されてしまうのですが、もしかしたら、「僕はこの病気に選ばれたのかもしれない」と考えているのです。症状はつらいですが、「ひょっとしたら自分は人類の進化形になったのかもしれない」と非常にポジティブに捉えています。生体肝移植の際は通常の手術とは異なり、既存の血管同士を直接つなげることができたり、色々な奇跡が重なって生き永らえているので、この命は人類が進化していくために何か大きな使命を持っているのだろうと思っています。
高橋さん:自分はそこまでの考えには至っていないですが、そういう発想や考え方は大事だと思います。この病気は症状でつらいことも多く、ネガティブなことを挙げたらきりがありません。発想を変えてポジティブに考えを転換するのは、この病気と付き合っていく上で大事なことだと思います。
低血圧でなかなか起き上がれなかったですが
布団からベッドに変えて、起きている時間が増えました
(森内さん)
ご自身の最近の体調や生活についてはいかがですか?
森内さん:以前と比べると、体調は安定していると思います。ただ、生活する上で大変なことは血圧が不安定なことです。朝は最低血圧が30mmHg台のこともあり、頭が重くて起きられない日もあります。ただ、ベッドを導入して生活スタイルが変わりました。これは少し前、検査入院した際に気づいたのですが、ベッドだと寝ている状態と立っている状態の間に腰掛けている状態が生まれるのです。それで、病院にあるようなリクライニング機能のあるベッドをレンタルしました。それまでは布団で寝ていたので起き上がるのがとても大変で、面倒になって1日中寝てしまうことが大半でした。でも、ベッドを導入してからは起き上がるのが楽になって、活動できる時間が2~3倍ほど増えました。多少調子が悪くてもふらふらしながらでも立ち上がって、とりあえず居間や食堂まで行って椅子に腰掛けてみる、ちょっと起きられそうならやかんに火をかけてみる、無理そうだったらまたベッドに戻る、というように動けるようになったのは大きいと思います。
高橋さん:以前と比べて体力がついた気がしますし、1日の活動時間が増えたように思い、治療の効果を感じています。ただ、1日中ずっと元気でいることはなかなかできません。午前中だけパートの仕事をしていますが、半日働いてご飯を食べた後は必ず昼寝をしています。夕方まで活動するのは難しいので、必ず休憩をとっています。また、年に数回、やる気も活力も全く起きず、1日中ほとんど動けない日もあります。その時は食欲もなくてトイレに行くのにやっと起き上がるくらいです。
森内さん:1日中元気でいることが難しいというのはよくわかります。エネルギーがなくなるのです。ガス欠という言葉がぴったりくるような感じです。だから、エネルギー補給ができるよう、手軽に食べられるものをストックしています。
高橋さん:また、日常生活の中で大変に感じることの1つにお風呂があります。お風呂に入ることは体力を使いますし、シャワーを浴びるだけでも結構疲れます。同じような悩みは他の方にもあるようで、似た経験をされたという話も聞きました。
森内さん:僕の場合は知覚が鈍くなっているところと過敏なところがあって、お風呂に入る時、浴室のタイルに素足が当たると痛くてたまらないです。それに、いつ倒れたりするかわからないので、お風呂に入るのは怖いですね。特に、1人だと何かあった時に助けてもらえません。だから、ひとり暮らしをしていた頃は温泉に行っていました。温泉なら周囲に人がいるので何かあっても助けてもらえますから。
高橋さん:あと、何か症状が出た時に、この病気によるものなのか、全く関係ないのか、すぐにはわからないので困ります。最近も右足のくるぶし辺りに少し痛みがあり、主治医の先生に相談したのですが、今のところ原因がはっきりしていないので少し不安です。
筋力が低下するので、スクワットなどの筋力トレーニングは
習慣的にやっておいたほうがいいと思います
(森内さん)
日々の過ごし方など、同病の方としてお互いに聞いてみたいことはありますか?
高橋さん:伯父さんの日々の活力、元気に過ごすためのモチベーション維持の方法を聞いてみたいです。反対に体調が悪くて動けない時の過ごし方も。
森内さん:僕の場合は、妻にご飯を作ること。料理をするためには数時間前から起きないといけないから、そのことがモチベーションです。逆に、動けない時はずっとスマートフォンのニュースを見て過ごしています。アミロイドーシスのことを検索することもあります。
高橋さん:あまりネガティブになることはない?
森内さん:「ネガティブに負けてたまるか」という気持ちがあるし、どうしてもネガティブになる時は「なってもいいや」と思って放っています。経験上わかってきたことは、体に、栄養や睡眠など何かが不足している時にネガティブになりやすいです。食欲がなくても少しレタスをかじってみたりとかすると、自然と元気になってきますね。
高橋さん:症状が重くないうちにやっておいたほうがよいことなどは?
森内さん:既にやっているとは思うけれど、筋力が衰えてくるから、スクワットなどの筋力トレーニングは習慣的にやっておいたほうがいいかな。
高橋さん:たしかに太ももの筋肉が落ちてきている自覚はあります。スクワットは、やり過ぎると立ちくらみになることがあるけれど、やっぱり筋力はつけておいたほうがよさそうですね。
森内さん:自分を支える力になるから大事だと思うよ。
どんなふうに頑張っているのか、どういうところに困っているか
同病の方の声をもっと聞きたいです
(高橋さん)
病院や医療関係者の方に望んでいることはありますか?
高橋さん:主治医の先生とはよく話をしますし、不満はないです。でも、自分の体のことは何でも知りたいので、難しい専門用語などがあっても構わないので、検査結果なども詳しく知りたいですね。これは人によって異なると思いますが、もし、ショックを受けるとか、精神的なダメージを考えて言いづらいことがあるなら、それも含めて全部オープンにしてほしいと思っています。
森内さん:龍太君がそういうスタンスであることを先生にも伝えるといいと思いますね。僕は自分自身の状態をどこか俯瞰しているところがあって、先生たちにもそれが伝わっているので、何でも話せています。この病気に対する自分のスタンスを伝えることは大事だと思います。
病院以外での病気の情報収集をどのようにされていますか?
森内さん:僕は、「道しるべの会」という患者会に入っていて、そこで月に1回程度開催される学習会に参加し、大学の先生の講演などを聞いたりしています。今一番知りたいと思っている眼の研究の話もありました。実は今、特に左目の視力が低下してきています。肝移植をしても眼のほうには着実にアミロイドが溜まってきているのです。近いうちにもっと見えなくなってしまうかもしれないし、そうすると車の運転ができなくなってしまうかもしれません。だから、眼の合併症に対する研究状況はとても気になっています。
高橋さん:伯父さんは病院の先生並みに情報を入手するのが早いです。あとは、やっぱり同病の方の声をもっと聞きたいです。病気に関する情報は先生からも教えてもらったりできますが、他の方がどんなふうに頑張っているのか、どういうところに困っているか、そういう情報がもっと知れたらいいなと思います。
病気になったことで人生が終わるわけではない。
できない人に代わって自分が発信し続けるつもりです
(森内さん)
おふたりはこの病気について精力的に自ら情報発信をされていますが、情報発信を続ける中で感じていることなどをお聞かせいただけますか?
森内さん:この病気の方はみんな、情報を求めています。実際、僕が「アミロイドーシス」という言葉を載せて情報発信をしていると、直接連絡をもらうことが多くあります。ただ、患者会にいるとわかるのですが、この病気は遺伝性の病気ですし、自身がこの病気だということを発信したくない方も多いです。中にはこの病気だったことで差別と闘ってきた方もいます。それに発信したくても、症状が重くてできない方もたくさんいます。だから、僕はこうした方に代わって、この病気についてどんどん伝えていきたいなと思っています。
高橋さん:情報発信をしていく中で、少しずつですが同病の方から情報をもらえるようになりました。「私のおばあちゃんがアミロイドーシスで...」というような相談をもらったりすることも増えてきていて、やっぱり発信することは大事だなと感じています。これからも情報発信を続けていき、患者同士のつながりが増えていったらいいなと思っています。
森内さん:病気になったことで人生が終わるわけではないですし、明るくいることが一番大事だと思っています。昔は難病のように扱われていたがんも、今は2人に1人はがんになるといわれるほど珍しくなくなりました。それに、治療が進歩し、寛解※する人も増え、たとえがんになったとしても前向きでいられる空気があると思います。この病気になってもそういう空気が広がるよう、明るく笑顔で過ごしたいと思います。
一時的あるいは永続的に、がんが縮小または消失している状態を指します。
高橋さん:「アミロイドーシス」という病気は、認知度がまだまだ低いと思います。例えば「がん」と聞いたらどのようなものか、イメージが湧くと思いますが、アミロイドーシスについてはそこまで知られてはいません。自分も、もし母がこの病気ではなかったら聞いたことはなかったかもしれないです。だから「アミロイドーシス」と聞いたらこういう病気だとわかってもらえるように、認知度を上げていけるようにしていきたいです。
早期発見、早期治療が大事。
他の方も早く病気が発見できるよう、自分の症状を伝えていきたいです
(高橋さん)
ご自身が発症・診断された頃から治療法も増え、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーを取り巻く状況は変わってきていると思います。次の世代に対して伝えたいことなどはありますか?
森内さん:僕は発症を自覚してから2年間、この病気を放置していました。でも、その2年で、症状はとても進んでしまいました。だから、娘にも龍太君たちにも「早めに検査をしたほうがいい」としつこく勧めました。次の世代の方には、「検査は怖くないから早くしましょう」と言いたいです。それに、僕が病気を発症した頃と違って、今は肝移植以外にも治療薬が登場して、よい時代になっていることも伝えたいです。
高橋さん:伯父さんと同じ気持ちです。このトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーに限らず、多くの病気はやっぱり早期発見、早期治療が大事だと思います。自分自身は非常に早い段階でこの病気を見つけられたので、他の方に比べたら症状も軽い状態で治療ができています。だから、他の方も早く病気を見つけられるように、自分の症状などを発信していけたらいいなと思っています。
内容は、2021年10月対談当時のものです。