トランスサイレチン型家族性
アミロイドポリニューロパチーとは?

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーは、全身に様々な症状が現れ、次第に進行していく、遺伝性の病気です。この病気は患者さんの数が少なく、また病気に関する情報の少なさや、あまりなじみのない病名から不安やとまどいを感じている方も多いことと思います。
ここでは、患者さんの不安や疑問を少しでも解消できるよう、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーについて知っておいていただきたい情報をまとめました。

「遺伝性ATTR(ATTRv)アミロイドーシス」、「FAP(Familial Amyloid Polyneuropathy)」とも呼ばれています。

(1) 病気の概要

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーは、“アミロイドーシス”という病気の一つです。
アミロイドーシスは、線維状の物質であるアミロイドが、体に沈着することによって機能障害が起こる病気の総称です。その中でも特に、トランスサイレチン(TTR)というタンパク質がアミロイドの原因になっているものを“トランスサイレチン型(ATTR)アミロイドーシス”といい、ATTRアミロイドーシスのうち、遺伝に関係するものが“トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー”です。発症すると感覚障害、運動障害、自律神経障害や心障害などの様々な症状をきたします。一方、遺伝は関係せず、加齢とともに高齢者に生じるものは、野生型ATTRアミロイドーシスと呼ばれ、別の病気です。

ATTRアミロイドーシスの概要画像

(2) 病気が起こるしくみ

通常、TTRは設計図である遺伝子から作られます。その際に、メッセンジャーRNAという物質に遺伝情報がコピーされ、それをもとにTTRが作られます。

通常の場合(TTRを作る遺伝子に変異がない)

TTRを作る遺伝子に変異がない場合の説明

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー患者さんは、TTRの遺伝子の一部に変異があるため、メッセンジャーRNAにコピーされる情報も通常と異なり、TTRも通常と異なる形で、不安定なものが作られます。

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー患者さんの場合(TTRを作る遺伝子に変異がある)

TTRを作る遺伝子に変異がある場合の説明

TTRは通常、4つの部品がひとかたまりになっていますが(四量体)、不安定なTTRは1つずつの部品(単量体)へ解離しやすくなります。

ばらばらになったTTRは、それぞれに集まってアミロイドと呼ばれる線維状の物質になり、全身の様々な部位に沈着します。

この沈着したアミロイドによって手足のしびれ、立ちくらみ、息切れ、不整脈や下痢・便秘など、多様な症状が引き起こされたり、身体機能やQOLが低下したりします。

体の様々な部位にアミロイドが沈着し、多様な症状が引き起こされるイメージ

(3) よくみられる症状

アミロイドは、末梢神経や心臓、消化器など全身に運ばれるため、体のいろいろな部分で様々な症状が現れます。

症状例の画像

末梢神経とは...

末梢神経は、手や足、内臓など体中のいろいろなところへ向かって広がる神経です。脳の指令を手足に伝え、手足の筋肉を動かしたり、痛みや温度などの感覚を脳に伝えたり、胃や腸の運動や、血圧などを調節したりします。末梢神経に障害が起こると、手足のしびれや痛み、力の入りにくさ、吐き気や下痢、立ちくらみといった症状が現れます。
末梢神経に障害が起こる病気をニューロパチーと呼びます。

(4) 発症しやすい年齢と変異のタイプ

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーに見られるTTR遺伝子の変異は100種類以上あることが知られていますが、日本人では「V30M変異」というタイプが最も多く、全体の6割以上を占めているといわれています。V30M変異の中でも、主に熊本県や長野県に患者さんが集中しているタイプは、比較的若い時期(平均37歳)に発症する(若年発症型)のに対して、日本全国に分布しているタイプでは、50歳以上(平均67歳)で発症する(高齢発症型)ことが多くなります1。また、V30M変異以外のタイプも比較的高齢で発症することが多く、その平均年齢は56歳とされています1

なお、遺伝に関係のない野生型ATTRアミロイドーシスの発症年齢は平均70歳であり2、高齢発症型のV30M変異のトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーと比較的発症年齢が似ています。

V30M変異とV30M変異以外の発症年齢の説明

Ueda M, Yamashita T, Misumi Y, et al. Amyloid. 2018;25(3):143-147.より作図

なお、V30M変異では、同じ病気でも、若年発症型と高齢発症型では、障害される体の部位やよくみられる症状が異なることが知られています3

V30M変異

若年発症型 高齢発症型
自律神経の障害 下痢や嘔吐など消化器症状が早期からみられる。 早期はあまり目立たない。
感覚の障害 温度を識別する感覚や痛みの感覚が鈍くなるのに対して、触覚(ふれる感覚)は正常あるいは軽度の低下にとどまる。 温度を識別する感覚、痛みの感覚、触覚(ふれる感覚)が同時に鈍くなることが多い。
心臓の障害 心房から心室の方へ電気が伝わらなくなる(房室ブロック)。 心臓にアミロイド沈着がみられることが多い(アミロイド心筋症)。

関島良樹. 臨床神経. 2014;54(12):953-956.より作表

一方、V30M変異以外のタイプでは、神経ではなく、主に心臓や脳、目、皮膚などにアミロイドが沈着する、様々なタイプがあることが知られています。

このように、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーは、変異のタイプによって発症年齢が幅広く、症状も人によって様々です。

  1. Ueda M, Yamashita T, Misumi Y, et al. Amyloid. 2018;25(3):143-147.
  2. Nakagawa M, Sekijima Y, Yazaki M, et al. Amyloid. 2016;23(1):58-63.
  3. 関島良樹. 臨床神経. 2014;54(12):953-956.

(5) 長い病名の意味

原因となるタンパク質の種類やどんな症状かを表すため、このような長い名前が付けられています。
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーは、肝臓で作られるタンパク質(トランスサイレチン:TTR)が、形が変わった線維状のタンパク質(アミロイド)になって蓄積することで体の複数の場所で末梢神経の障害(ポリニューロパチー)が起こる遺伝性(家族性)の病気です。
病気の特徴から、「FAP(Familial Amyloid Polyneuropathy)」とも呼ばれています。
また、近年は、アミロイドによる病気を意味する"アミロイドーシス”を用いて、「遺伝性ATTRアミロイドーシス」という名前や変異を意味する”variant”の"v"を用いて「ATTRvアミロイドーシス」という名前で呼ばれたりしています。
これらはすべて同じ病気のことを指します。

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの説明画像

(6) 病気の経過

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの初期症状としてよくみられるものは、指先のしびれ、下痢や便秘などです。
変異のタイプによっては、心臓の症状や目の症状が強く出る場合があります。
適切な治療を行わないと症状が進み、歩けなくなったり、寝たきりになったりしてしまいます。患者さんによって差はありますが、未治療の場合の平均生存期間は発症から約10年といわれています。診断されたら、できるだけ早い段階から適切な治療を始めることが大切です。

診察しているイラスト

(7) 日常生活で気を付けること

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーでは、自分では病気の影響と気付きにくい、様々な症状が現れます。
神経が障害されている場所や症状によって気を付けるべきことが変わるので、担当医に相談しましょう。

やけどに気を付けましょう

やけど注意のイラスト画像

末梢神経が障害されると、手や足が温度や痛みを感じにくくなることがあります。
カイロや湯たんぽによる低温やけどやお風呂の温度に気を付けましょう。

立ちくらみが起こりやすくなります

めまいのイラスト画像

末梢神経の中で、自分の意思とは関係なく血管や内臓などの働きを調節している神経を「自律神経」といいます。
自律神経が障害されると、寝ている状態や座った状態から立ち上がる時に血圧が下がり立ちくらみを起こすことがあります。
立ちくらみが起こりやすい状況や対処法を知っておきましょう。

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー患者さんご自身でできる日常生活での工夫をまとめたページもあります。こちらからご覧ください。

気を付けるべきこと、わからないことは担当医や看護師、認定遺伝カウンセラー®などに相談しましょう。

ここでご紹介している内容をまとめた冊子があります。

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーと診断された患者さんへの冊子画像

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーと診断された患者さんへ

監修:

植田 光晴 先生

(熊本大学 脳神経内科学 教授)

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーと診断された患者さんに知っておいていただきたい、病気が発症するしくみや症状、日常生活で気を付けること、治療方法などについてわかりやすくまとめた冊子です。

PDFのダウンロードはこちら