トランスサイレチン型家族性
アミロイドポリニューロパチー(FAP)とは?
監修:植田 光晴 先生(熊本大学 脳神経内科学 教授)

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は、全身に様々な症状が現れ、次第に進行していく、遺伝性の病気です。この病気は患者さんの数が少なく、また病気に関する情報の少なさや、あまりなじみのない病名から不安やとまどいを感じている方も多いことと思います。
ここでは、患者さんの不安や疑問を少しでも解消できるよう、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)について知っておいていただきたい情報をまとめました。

*:「遺伝性ATTR(ATTRv)アミロイドーシス」、「FAP(Familial Amyloid Polyneuropathy)」とも呼ばれています。

(1) どんな病気ですか?

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)とは、肝臓で作られるトランスサイレチン(TTR)というタンパク質の形が変わり、体内の様々な場所に蓄積してしまうことで起こる遺伝性の病気です。
タンパク質の形が変わってしまうと不安定になり、線維状のかたまりになります。この状態のタンパク質をアミロイドと呼びます。
この病気では、TTRを作るための遺伝子に変異があるため、肝臓で作られるTTRの形が変化し、ばらばらになってアミロイドを形成しやすくなります。

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーとはの説明画像

TTR由来のアミロイドは体の様々な部分に運ばれて蓄積し、障害を引き起こします。

アミロイドの説明画像

(2) どのような症状が現れるのですか?

アミロイドは、末梢神経や心臓、消化器など全身に運ばれるため、体のいろいろな部分で様々な症状が現れます。

症状例の画像

末梢神経とは...

末梢神経は、手や足、内臓など体中のいろいろなところへ向かって広がる神経です。脳の指令を手足に伝え、手足の筋肉を動かしたり、痛みや温度などの感覚を脳に伝えたり、胃や腸の運動や、血圧などを調節したりします。末梢神経に障害が起こると、手足のしびれや痛み、力の入りにくさ、吐き気や下痢、立ちくらみといった症状が現れます。
末梢神経に障害が起こる病気をニューロパチーと呼びます。

(3) どのように病気が起こるのですか?

タンパク質であるTTRは遺伝子を設計図として作られるため、TTRの遺伝子に変異があると、正常のものとは形が異なるTTRが作られることになります。
通常、TTRは4つの部品がひとかたまりになって安定していますが、変異のある遺伝子から作られたTTRは不安定でばらばらになりやすくなっています。ばらばらになったTTRはアミロイドと呼ばれる線維状の物質となり、体の様々な場所でアミロイドが蓄積することで、神経や臓器の機能障害を引き起こします。

TTRの遺伝子についての説明

この病気をさらに理解していただけるように「遺伝」などに関する情報をまとめたページもあります。こちらからご覧ください。

(4) 何歳くらいで発症しますか?

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)に見られるTTR遺伝子の変異は100種類以上あることが知られていますが、日本人では「V30M変異」というタイプが最も多く、全体の6割以上を占めているといわれています。V30M変異の中でも、主に熊本県や長野県に患者さんが集中しているタイプは、比較的若い時期(平均37歳)に発症する(若年発症型)のに対して、日本全国に分布しているタイプでは、50歳以上(平均67歳)で発症する(高齢発症型)ことが多くなります1。また、V30M変異以外のタイプも比較的高齢で発症することが多く、その平均年齢は56歳とされています1

V30M変異とV30M変異以外の内容を記載した画像

1:Ueda M, Yamashita T, Misumi Y, et al. Amyloid. 2018;25(3):143-147.より作図

なお、V30M変異では、同じ病気でも、若年発症型と高齢発症型では、障害される体の部位やよくみられる症状が異なることが知られています2

V30M変異

若年発症型 高齢発症型
自律神経の障害 下痢や嘔吐など消化器症状が早期からみられる。 早期はあまり目立たない。
感覚の障害 温度を識別する感覚や痛みの感覚が鈍くなるのに対して、触覚(ふれる感覚)は正常あるいは軽度の低下にとどまる。 温度を識別する感覚、痛みの感覚、触覚(ふれる感覚)が同時に鈍くなることが多い。
心臓の障害 心房から心室の方へ電気が伝わらなくなる(房室ブロック)。 心臓にアミロイド沈着がみられることが多い(アミロイド心筋症)。

2:関島良樹. 臨床神経. 2014;54(12):953-956.より作表

一方、V30M変異以外のタイプでは、神経ではなく、主に心臓や脳、目、皮膚などにアミロイドが沈着する、様々なタイプがあることが知られています。

(5) 長い病名の意味は?

原因となるタンパク質の種類やどんな症状かを表すため、このような長い名前が付けられています。
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は、肝臓で作られるタンパク質(トランスサイレチン:TTR)が、形が変わった線維状のタンパク質(アミロイド)になって蓄積することで体の複数の場所で末梢神経の障害(ポリニューロパチー)が起こる遺伝性(家族性)の病気です。
また、病気の特徴から、「FAP(Familial Amyloid Polyneuropathy)」とも呼ばれています。

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの説明画像

(6) どのような経過をたどるのですか?

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の初期症状としてよくみられるものは、指先のしびれ、下痢や便秘などです。
適切な治療を行わないと症状が進み、歩けなくなったり、寝たきりになったりしてしまいます。患者さんによって差はありますが、未治療の場合の平均生存期間は発症から約10年といわれています。診断されたら、できるだけ早い段階から適切な治療を始めることが大切です。

診察しているイラスト

(7) 日常生活で気を付けることはありますか?

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)では、自分では病気の影響と気付きにくい、様々な症状が現れます。
神経が障害されている場所や症状によって気を付けるべきことが変わるので、担当医に相談しましょう。

やけどに気を付けましょう

やけど注意のイラスト画像

末梢神経が障害されると、手や足が温度や痛みを感じにくくなることがあります。
カイロや湯たんぽによる低温やけどやお風呂の温度に気を付けましょう。

立ちくらみが起こりやすくなります

めまいのイラスト画像

末梢神経の中で、自分の意思とは関係なく血管や内臓などの働きを調節している神経を「自律神経」といいます。
自律神経が障害されると、寝ている状態や座った状態から立ち上がる時に血圧が下がり立ちくらみを起こすことがあります。
立ちくらみが起こりやすい状況や対処法を知っておきましょう。

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)患者さんご自身でできる日常生活での工夫をまとめたページもあります。こちらからご覧ください。

気を付けるべきこと、わからないことは担当医や看護師、認定遺伝カウンセラーなどに相談しましょう。

● ここでご紹介している内容をまとめた冊子があります。

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーと診断された患者さんへの冊子画像

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーと診断された患者さんへ

監修:植田 光晴 先生(熊本大学 脳神経内科学 教授)

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)と診断された患者さんに知っておいていただきたい、病気が発症するしくみや症状、日常生活で気を付けること、治療方法などについてわかりやすくまとめた冊子です。

PDFのダウンロードはこちら