トランスサイレチン型家族性
アミロイドポリニューロパチーとは?

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーは、全身に様々な症状が現れ、次第に進行していく、遺伝性の病気です。この病気は患者さんの数が少なく、また病気に関する情報の少なさや、あまりなじみのない病名から不安やとまどいを感じている方も多いことと思います。
ここでは、患者さんの不安や疑問を少しでも解消できるよう、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーについて知っておいていただきたい情報をまとめました。

「遺伝性ATTR(ATTRv)アミロイドーシス」、「FAP(Familial Amyloid Polyneuropathy)」とも呼ばれています。

(1) どのような病気なのでしょうか?

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手足のしびれや下痢・便秘などの症状があらわれ、進行するとさまざまな症状が出てくる可能性のある病気です。

この病気になると、手足のしびれ、下痢や便秘、視力の低下などの症状がよくみられます。また、感覚が鈍くなる、立ちくらみ、歩きにくさ、息切れといった症状もあらわれることがあります。
適切な治療を受けずに症状が進行すると、歩けなくなったり、寝たきりになったりしてしまいます。患者さんによって差はありますが、未治療の場合の平均生存期間は発症から7~10年程度といわれています。治療薬は病気の早期に特に効果がありますので、できるだけ早い段階から適切な治療をはじめることが大切です。

●よく見られる症状

よくみられる症状
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これらの症状があることによって普段行っている動作がしにくくなることがあります。

たとえば、手足がしびれたり感覚が鈍くなったりすると、ボタンを留める、箸を持つ、といった日常動作がしにくくなることがあります。

●しにくくなる動作

しにくくなる動作

(2) この病気の原因はなんでしょうか?

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この病気はアミロイドという物質が臓器や神経に溜まってしまうために起こります。その結果、臓器や神経は正常なはたらきができなくなり、さまざまな症状があらわれます。

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーで臓器や神経に溜まるアミロイドは、トランスサイレチンという肝臓で作られるたんぱく質が変化したものです。トランスサイレチンは通常4個まとまった状態(四量体)でいますが、この病気では遺伝子に変異が生じてばらばらの状態(単量体)になりやすくなります。トランスサイレチンがばらばらの状態(単量体)になると、それらが集まってアミロイドという物質に変化し、これが体に溜まっていきます。

●病気が起こるしくみ

病気が起こるしくみ

このようにアミロイドが体に溜まると、さまざまな症状が出てしまいます。

病気が起こるしくみ2

病名 “トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー ”の意味

この病気の名前は、原因となるたんぱく質の種類やどんな症状が出るかを表しています。
近年は、アミロイドによる病気を意味する“ アミロイドーシス” を用いて「遺伝性ATTRアミロイドーシス」や、変異を意味する“variant”の“v”を用いて「ATTRvアミロイドーシス」と呼ばれたりもします。

トランスサイレチン型

病気の原因になるたんぱく質

家族性

遺伝する病気であること

アミロイド

ばらばらになったトランスサイレチン(単量体)が変化した物質(病気の原因)

ポリニューロパチー

神経の障害による病気であること

(3) どんな治療があるのでしょうか?

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この病気の治療薬は2種類あります。

siRNA製剤とTTR四量体安定化剤の2種類です。
以前は肝移植が行われていましたが、最近は実施されなくなっています。
どの治療法を選択するかは、患者さんと医師で相談しながら決めていきます。
ここでは治療薬であるsiRNA製剤、TTR四量体安定化剤について説明します。

siRNA製剤(静脈内投与、皮下投与): トランスサイレチンが作られるのを抑える

肝臓でトランスサイレチンが作られるために必要なmRNA を分解する薬です。トランスサイレチンが作られるのを抑えてその量を減らします。

siRNA製剤(静脈内投与、皮下投与)

TTR四量体安定化剤(経口投与): トランスサイレチンがばらばらになるのを抑える

4個まとまったトランスサイレチン(四量体)を安定化させる薬です。トランスサイレチンがばらばらの状態(単量体)になるのを抑えます。

TTR 四量体安定化剤(経口投与)

※両製剤とも、目や脳の症状に対する効果は確認されていません。

治療薬以外の治療法について知りたい方はこちらをご覧ください。

普段の生活を少しでも快適にするための工夫

  • 1.手足がしびれる、動かしにくい
    転びやすい履物は避ける
    • 少しの段差でもつまずいて転びやすいので、家の中の段差のあるところを把握しておく
    • 転びやすい履物は避ける
  • 2. めまいや立ちくらみを起こしやすい
    お風呂は長時間つからず、浴槽から出るときは手すりにつかまる
    • 急に起き上がらない・立ち上がらない
    • めまいやふらつきを感じたときは、いったん座ってからゆっくり立ち上がる
    • お風呂は長時間つからず、浴槽から出るときは手すりにつかまる
  • 3.温度や痛みを感じにくい
    • 温風ヒーターやこたつの電熱線に足や手を近づけすぎない
    • 湯たんぽなど局所を温めるものは使用せず、電気毛布を使用する
    • 手足に傷ややけどの痕がないか、目で直接見てチェックする
    • はさみや包丁を使うときは、手元をよく見てケガをしないように注意する
    温風ヒーターやこたつの電熱線に足や手を近づけすぎない はさみや包丁を使うときは、手元をよく見てケガをしないように注意する
  • 4.食欲がない
    • ゼリー状の高カロリー栄養補助食品を利用して栄養を補う
    • 一度にたくさん食べられないときは、1日5~6回に分けて食べる
  • 5.唾液が出にくい
    • 飲み込みにくいときは、スープやお味噌汁と一緒に食べる
    • ガムを噛んで、唾液を出やすくする
    • 歯磨きやうがいなどで、口の中を清潔にする
  • 6.下痢や便秘が気になる [下痢のとき]
    • 食事の1回量を減らし、回数を増やす
    • 脱水を避けるため、水分を多く摂るように心がける
    • 脂質を多く含む食品や乳製品を食べすぎないように気をつける
    [便秘のとき]
    • 食物繊維や水分を多く摂るように心がける
  • 7.目が見えにくい
    • 眼科は継続して受診し、点眼薬は忘れずさすようにする

ここでご紹介している内容をまとめた冊子があります。

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの患者さまへ~病気を知る・伝える~の冊子画像

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの患者さまへ~病気を知る・伝える~

監修:

関島 良樹 先生 (信州大学医学部 脳神経内科、リウマチ・膠原病内科 教授)

植田 光晴 先生 (熊本大学大学院生命科学研究部 脳神経内科学 教授)

柊中 智恵子 先生 (熊本大学大学院生命科学研究部 環境社会医学部門看護学分野 准教授
認定遺伝カウンセラー®・日本難病看護学会認定 難病看護師)

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーと診断された患者さまに知っておいていだきたい、病気が発症するしくみや症状、治療、そして“病気を伝える”ことなどについてわかりやすくまとめた冊子です。