この病気、「私」の向き合い方

治療薬の効き方には個人差があり、すべての患者さんで同じような効果が得られるわけではありません。

自らの情報を積極的にオープンにすることで同病の方の励みになりたい、この病気の認知・理解をより高めていきたいという患者さんご本人の思いを踏まえ、今回は実名と写真付きでご紹介します。

お母様がトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー*と診断されたのをきっかけにこの病気の存在を知った高橋さん。ご自身も20歳代後半で発症し、食事をしたりベッドから出て動いたりすることすらつらい時期がありましたが、現在では治療により日常生活であれば問題なくできるようになっています。さらに、ご自身が病気について調べた際、同じ病気の患者さんの声を見つけることが難しかった経験を通じ、同じ病気の方やそのご家族、似た症状で悩んでいる方などの力に少しでもなれたらと思い、自らの体験をSNSで発信されています。

「遺伝性ATTR(ATTRv)アミロイドーシス」、「FAP(Familial Amyloid Polyneuropathy)」とも呼ばれています。

どんな病気か知っていたからこそ、
診断時はつらく精神的にも不安になりました

亡くなられたお母さんと同じ病気の可能性があるのではと不安になるRさん 約8年前、長らく原因不明の病気を患っていた母親が、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーと判明しました。それまで私も家族もこの病名を聞いたことがなく、その時に初めて遺伝性の病気だと知りました。当時は自分にもその可能性があるのかなという程度の認識でした。ただ、すでに亡くなっていた母方の祖母についても病院に残っていた検体を改めて調べてもらったところ、同じ病気だったことがわかり、それから数年後には伯父も発症しました。自分自身の体調に変化を感じたのは、3年前の秋です。ちょうど渡航先から帰ってきたタイミングで体調が悪くなり、それが治らず続いており、原因もわからない状態でした。母はその頃にはすでに他界していましたが、自分にも生前の母と同じように体力低下や息切れ、動悸、立ちくらみといった症状が出ていたので、同じ病気の可能性があるのではと不安になったことを覚えています。

病名を知るために、まず県の難病相談支援センターに電話をして事情を説明し、どうすればこの病気の検査を受けられるのかを尋ねました。当時は20歳代だったので、まだかかりつけ医などもいませんでした。電話で教えてもらったとおりに、まずは自宅の近所にある病院へ行き、そこで紹介状をもらいました。そして県内の大学病院を受診し、検査入院を経てトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーと確定診断を受けました。2年前の春頃でした。

立ちくらみなどのいくつかの症状があったので検査前から覚悟はしていましたが、実際に確定診断が出るとやはり精神的に不安になりました。それに呼応するかのように体調も優れない日々が続きました。病気については、母の病名がわかった際に色々と調べて知っていたからこそ、当時は将来への不安が大きかったのです。もちろん、家族には病気のことをすぐに伝えました。弟はある程度、予想をしていたのか特別に驚いたりショックを受けたりという様子はありませんでした。ただ、祖父はかなりショックだったようです。祖父は自分の妻、娘(私の母)、そして息子(私の伯父)がこの病気だと診断され、孫の私までかかっていたのですから、当然かもしれません。それでも、私に過度な不安を与えないようネガティブな言葉はなるべく使わないように配慮をしてくれていたのを覚えています。同じ病気を患っている伯父が、私のことをとても心配してくれて「絶対に病気に負けないでほしい」、「医療も日々進歩しているから大丈夫だよ」と言葉をかけてくれたのが心強かったです。

日々の「当たり前」を
確実に行っています

私の場合、この病気の症状として、息切れや動悸、ドライマウス、ドライアイ、便秘、下痢、手のしびれ、男性器機能障害、温度感覚の鈍りなどがあります。診断前から体力が急激に落ちていたことが気になっていたのですが、この病気は治療を受けても、完治して、体が体力も含めて発症前の状態に戻ることは難しいとわかった時が一番つらかったです。今後、病気の進行がどうなるかわかりませんし、突然悪くなることもあるかもしれないので、今でも怖いと思う時があります。現在では、以前と比べて病気について受け止めることができていると思いますが、すべてを受け入れられているのかは自分自身でもわかりません。病気のことを考えずに生きていくことはできませんが、「怖い」ばかりでは精神的にも体調的にも悪くなるだけなので、過度に不安にならずに過ごしていきたいと思っています。

朝ご飯を食べる、歯磨きをする、軽いストレッチをするなどのチェックリスト 今は薬の効果が出ていて、それほどつらさを感じず、比較的動くこともできるので、この状態を日々続けられるように楽しく一生懸命生きることに全力を注いでいます。確定診断後、精神的に不安になっていた時は体調も優れずに食事や飲み物も喉を通らず、一日中ベッドの中にいるといった感じで負のスパイラルにはまって、体調がますます悪くなっていました。それではいけないと思い、朝ご飯を食べる、歯磨きをする、軽いストレッチをするなどのチェックリストを作り、健康な人であれば当たり前にやっていることを優先的にやるようにしました。半年ほどで習慣化し、今はチェックリストを付けなくても自然とできています。仕事について、発症前は狩猟を生業の一つとしていましたが、病気になってからはお休みしています。また山を歩けるような体になることを目指し、今は、体力づくりもかねてパートタイムで立ち仕事を始めています。

自分自身の体のことはすべて知っておきたいし、
進む道は自分で決めたいと思っています

地元の大学病院に通院しているだけでなく、伯父が通院している他県の大学病院でも年に一度、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの専門医の先生に診ていただくために検査入院をしています。その間に仕事などに制限は生じますが、専門的な検査は必要なことだと理解しています。検査結果は、いつも通院している地元の大学病院の先生にも毎回共有してもらっており、主治医の先生とはコミュニケーションもスムーズにとれていると思います。

私自身は、自分の体の状態について詳しく知りたいという気持ちがあるので、検査結果などあらゆる情報を知りたい、理解したいと思っています。やはり自分の体ですから、できるだけ自分自身でも情報を得て理解したいですし、今後、治療に関する選択など進むべき道が分かれる時は自分で決めたいと思っています。

SNSを通じて自ら情報発信、
それが自分の役目だと思います

私はSNSを通して、自分がトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーであることを公表し、入院や検査など、自分自身が経験していることを発信しています。始めた理由は、以前、自分がこの病気を調べようと思った時に、なかなかほしい情報にめぐり合えなかったからです。病気の概要は医療系のサイトで調べることはできても、実際にどのような人が、どのような経過をたどり、どのようなつらさや悩みがあるのか、当事者から発信された情報がまったくありませんでした。この病気にかかっている方は年配の方が多い印象ですが、こうした方々に代わって、比較的若い患者である自分が発信することで、同じ病気の方やそのご家族、そして似た症状があるけれども病名がわからないという方の力に少しでもなれたらと思っています。 SNSで入院や検査など、自分自身が経験していることを発信しているRさん 実際にSNS経由で、同病の方やご家族の方から直接連絡をいただいたこともあります。

この病気に限らず、珍しい病気にかかった場合、探しても情報がないとますます孤独を感じ、不安になるはずです。しかし、同じ病気や似た症状の人たちの声が届きやすい社会になれば孤独感や不安な気持ちも少し和らぐのではないでしょうか。この病気は一般に知られておらず診断も難しいので、様々な症状が出て苦しんでいるけれども、まだ診断に至っていないという人もいるはずです。そのような方々が確定診断にたどり着き、少しでも早く適切な治療を受けられるようになることを願っています。それは私のような若い患者が積極的に情報を発信することの意味であり、自分にできる役目の一つではないかと思っています。

内容は、2021年7月インタビュー当時のものです。