この病気、「私」の向き合い方

治療薬の効き方には個人差があり、すべての患者さんで同じような効果が得られるわけではありません。

マラソンや山登りといったアウトドアが趣味で、日頃からアクティブに過ごされていました。ところが足のしびれが出始め、それが腕にも広がっていき、活動が困難に。トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー*と診断されるまでに2年かかりました。今は、かわいいお孫さんとまた遊べるようになりたいと運動を続け、 リハビリも積極的に行っていこうと考えているそうです。病気が判明してからまだ間もないため、病気との向き合い方、日々の生活の在り方を模索されています。

「遺伝性ATTR(ATTRv)アミロイドーシス」、「FAP(Familial Amyloid Polyneuropathy)」とも呼ばれています。

病名の告知からまだ時間が経っていないので
「なぜ自分が」という思いもあります

男性のスリッパが脱げているイラスト

2年前、足にしびれが出始めました。今までにない感覚だったので、定期的な健康診断の際、医師に相談をしましたが「温度が感じ取れるならば大丈夫でしょう」と、たいしたことはないのではという見解で、特に検査も治療もありませんでした。でも、しびれは悪化する一方で、半年後、外出先でスリッパを履いていたのですが、いつの間にか脱げてしまっていて、そのことに気がつけない状態になっていました。いよいよ、これはおかしいのではと思いながらも、2~3カ月が経ち、痛風で通院していた内科の先生に相談をしました。その頃には、しびれはますますひどくなり、その範囲も、足は膝から下、腕は肘から上までに広がっていました。内科の先生からは神経内科の受診を勧められ、近くの病院で診てもらうことに。色々な検査をしましたが、原因不明のため治療もないままで、その間もしびれは強くなっていきました。紹介状を書いてもらい、大学病院に検査入院をしましたが、最初はそこでも原因がわからなかったのです。

症状は悪化し、数カ月後には食欲もなくなってしまいました。再度、大学病院に検査入院をして、やっとアミロイドーシスではないかという疑いがもたれたのです。すぐには確定診断が出ず、さらに3カ月程経ってから、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーという病名が告げられ、治療がスタートしました。

それまでこの病気のことは、まったく知りませんでした。ましてや難病だなんて思ってもいませんでした。もう何十年も前になりますが、知り合いの女性が別の難病で若くして亡くなっていたこともあり、この病気の告知を受け、難病と知った時はショックを受けました。今でも、自分はあとどれくらい生きられるのかと考えてしまいますし、親族には同病の人はいないので「なぜ自分が」という気持ちもあります。

気落ちすることもある日々ですが
治療が開始されて病気の大きな進行は止まったような感じがします

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの治療を開始してから、今はまだ半年程で、自分では変化に気づいていなかったのですが、主治医の先生に「症状が悪くなるのが止まった感じではないですか?」と尋ねられ、そう言われてみれば、ひどくなっているということはないと実感しました。ただ、最近は体力が落ちてきているように思います。これが、新型コロナウイルス感染症の影響で外出できず運動もできていないからなのか、病気の症状のためなのかはわかりません。

昨年、この病気がわかる前に検査入院をした時には、体調が悪く、ご飯が食べられませんでした。しかし、治療を開始してからは、三食とも、ご飯は一膳くらいを食べられるようになり、食欲も戻ってきたので良かったなと思っています。ただ、手のしびれ症状のために、箸が持てなくなってしまったので、食事はスプーンやフォークを使っていますが、これが不便で。食べたいものはたくさんありますが、外食にはなかなか行けなくなってしまいました。

歩くことも、以前のようにスムーズにはいかなくなりました。しびれが強くなってからは、足の感覚がわからなくなってしまったので、道のちょっとした段差や傾斜に足をとられて、転んで倒れてしまうことがあります。また、昼間はあまり感じないのですが、寝ている時やじっとしている時に、しびれているところにズキンズキンと痛みを感じることもあります。しばらくすると治まりますが。動悸もたまにあり、その時は不安になって気落ちしますが、心臓を含めて全身の詳しい検査をこれから行う予定なので、主治医の先生に色々と相談できればと思っています。

積極的に運動を続け、リハビリを通じて
もっと動けるようになれれば

この病気の症状が出始めた時には仕事はすでに引退していて、マラソンや山登りといった趣味のアウトドアを楽しんでいました。それが今はできなくなってしまったのが本当に残念です。以前山登りにはよく子どもたちを連れて行ったように、次は孫たちと一緒に、と思っていたのですが。力が入らないので、小さい孫たちを抱えられず、一緒に遊べなくなったのもつらいですね。

家族性の病気ということで、自分の子どもたちはすぐに検査を受けてくれました。本人たちも可能性を理解しているので、積極的にやってくれましたね。検査の結果、今のところは大丈夫だと伝えられ、安心しました。私の場合は症状が出始めてから病気がわかるまで2年程かかりましたが、そうした経緯も知っているので、これから少しでも気になることがあれば、病院へすぐに行ってくれるはずです。孫たちに関しても同様です。 男性がトレーニングをしているイラスト この病気は、存在自体を知らなければ、なかなか早期に見つけるのは難しいですよね。

今は家族と暮らしていて、色々と手伝ってもらいながら生活をしていますが、最近、介護保険サービスの要支援2の認定を受けました。まだ認定されたばかりで、詳細までは把握していないのですが、リハビリを受けられるようなので、もう少しスムーズに歩けるようになりたいと思っています。自分でも、自宅用のトレーニングマシンを使って、運動を続けるようにしています。筋肉は年をとっても作れるので、少しずつでも続けて、克服しようと思っています。

患者数が少ないので、治療の進展に向けて
できることがあれば協力していきたい

難病ということは、やはり近所の方には知られたくないと思っています。田舎に住んでいるので、噂がたってしまうのに抵抗があって。ただ、症状や進行の具合について、どのような感じなのか同病の方にお話を伺ってみたい気持ちはあります。通っている大学病院で「この病院に、同じ病気の方はいるのですか?」と聞いたこともあるのですが、個人情報の関係で伝えられない事情があるようです。

今の主治医の先生は、病気や検査・治療のことについて、しっかりと説明をしてくれる方です。また、時間を惜しまずに、質問や疑問にも応えてくれます。とてもいい先生なので「この人の言うことであれば」と信頼しています。

私が一番今知りたいのは、これからの治療法の発展のことです。新しい治療法や薬の開発がどの程度進んでいるのかということは、とても気になります。今は、私の病気の進行は止まっていっているような感じですが、患者として期待することは、今以上に良くなることが望める薬ができるのか、今の薬はさらに改良されるのか、薬で体にたまったアミロイドそのものをなくすような治療法が将来的にできるのか、といった点です。一方で、この病気は患者の数が少ないので、新しい薬は作られにくいのではとも考えてしまいます。だから、私に少しでもできることがあれば、積極的に協力していきたいと思っています。

内容は、2020年10月インタビュー当時のものです。